日本翻訳連盟(JTF)

AI翻訳があるのに、なぜ英語を学ぶのか?(2)

講演者:厚木市立鳶尾小学校 総括教諭 成田 潤也さん

日本翻訳連盟主催の 2025 年翻訳祭から選りすぐった講演の抄録をお届けします。今回は、厚木市立鳶尾小学校総括教諭の成田潤也さんによる「AI翻訳があるのに、なぜ英語を学ぶのか?」の第2回です。前回に引き続き、長年にわたる小学校での現場実践と研究に基づいて、AI時代における、言語(英語)習得だけに終始しない言語教育の目的と本質を考えていきます。

●3つ研究課題と裏テーマを掲げて授業実践に臨む

2019年に行った機械翻訳を介しての外国語と国語の横断的学習に関する研究には、大きく分けて次の3つの研究課題がありました。

① 機械翻訳技術の向上を前提にした場合、外国語教育が果たす教育的意義は何か。
② 研究課題①の意義を満たすような、小学校外国語教育の指導内容とはどうあるべきか。
③ 外国語教育と国語教育は、同じ言語の教育として相互に影響を及ぼすか。及ぼすとしたら、それは小学校段階においてはどのようなものか。

また、表だって書いてはいないのですが、裏のテーマがありました。

AI翻訳、機械翻訳を使うと子どもは英語を勉強しなくなるというような言説がありましたが、私は、過去のインターネットや携帯電話、スマートフォンの歴史を見ると、そんなことはないだろうと思っていました。テクノロジーが普及する時には必ずそういった反発があるけれども、のちに時代が証明してきたわけです。AI翻訳も同じ道をたどるだろうという確信がありましたので、「機械翻訳使用は、児童の外国語学習意欲を減じるか?」という裏テーマを掲げながら研究に取り組みました。

大きく分けて2つの授業実践を行いました。

授業実践 ①

実践①では、小学校6年生の子どもたちにポケトークを提供し、活用してもらいました。当時はまだ1人1台端末というのはありませんでしたので、こういった研究をするためには専用端末が必要だったのです。そこでポケトークさんの協力を得て、機械20台を子どもたちに貸し出し、子どもたちに自由に使わせたり、日本語と外国語を行ったり来たりするような学習をしながら、そのプロセスをポートフォリオの形でまとめていくという実践です。

この実践には細かく分けると5つのフェーズ(段階)があります。

フェーズ1:機械翻訳の自由試行。とにかくいろいろやってみましょうという時間です。
フェーズ2:機械翻訳でできること/できないことを検証していくという探求的な学習。
フェーズ3:機械翻訳されやすい言葉/されにくい言葉にはどんな特徴があるのかということを検証する国語の学び。
フェーズ4:その学びを活かして、ポケトークを使いながら、ネイティブの先生であるALT(Assistant Language Teacher)とコミュニケーションを取る活動。
フェーズ5:以上をまとめる。

このような流れです。

●機械翻訳機を自由に使ってみた子どもたちの気づき

フェーズ1の自由試行では、とにかく子どもたちに自由にポケトークを使わせました。「ドラえもんの『ほんやくこんにゃく』みたいな道具ができたんだよ」と言って、子どもたちに新しい機械を見せる。新しい機械というのは子どもたちの目を引きます。ただ、目を引いた状態では本質にはなかなか向かえませんので、とにかく自由に使わせてひと通りやらせる、そして飽きさせるというのがとても重要です。

自由試行の時には、子どもたちはいろいろなことをします。例えば卑猥な言葉や下品な言葉を翻訳したりもするんです。それは子どもの常ですので、目くじら立てて怒るのではなくて、いろいろなことを試させてみました。中には「英語以外の言葉にしてもいいですか?」と子どもたちが聞いてきたりもしますので、「どうぞどうぞ、自由にやってごらん」と言って、いろいろな言語を始めさせたりもしました。

第2段階のフェーズ2として、授業の中では時間確保できなかったのですが、ポケトークを実際に子どもたちに貸し出して、「家でいろいろなことをできるかどうか試してごらん」と課題を出してレポートを書いてきてもらいました。

すると、いろいろな反応が返ってきました。「実際に英語話者と使ってみたら、思った以上に意思疎通が図れて便利だった」という回答。それから、YouTubeとかテレビやステレオから流れてくるような音声を翻訳しようと思ったけれど、うまくいかない。これは、音声の技術的な問題もありますし、スピードが速すぎたり、翻訳しやすい英語ではなかったりするが故になかなかうまく翻訳できないという技術的な限界があったりします。

それから「さまざまな言語に切り替えることができて面白かった」「初めて見る言語があった」という感想もありました。

これは面白いんですけど、「同音異義語が何度やっても失敗する」と言う。音声翻訳ですので、音声をまず日本語に変換する時にどうしても同音異義語がうまくいかないんですね。

例えば、「鐘」と「金」がうまくいかなかったりするわけです。その時に、同じ意味の別の言葉に言い換える。例えば「ベル」と言ったり、「鐘の音」というふうに後ろに「ね(音)」をつけたりすると、これは絶対お金ではないわけです。こんなふうに言い換えてあげるとうまく翻訳されるということに気づいた子どもたちがいます。

それから、ポケトークを2台向かい合わせてお互いに翻訳し合って、訳がどこまで続くかを試してみた子がいたらしいです。そうすると、最初は長い文だったのが、途中からだんだん短くなっていって、最後には単語1個になってしまった。つまり、翻訳を繰り返していくと、どうもその途中で情報が削がれてしまうことがあるらしいということに気づいているわけです。

また別のある子は、個人的にスペイン語の習い事をしていて、「自分の覚えたい例文を作ることができる。とても便利だ」と返してきました。これは、とても賢いなと思いました。

それから、私が協力していただいた学級にはスリランカ出身の子どもがいました。タミル語話者なのですが、この子は学校でタミル語を喋ったことはありませんでした。なぜなら誰もわからないからです。ですがポケトークを使うことによって、この子は教室でタミル語を喋って、友達やALTとコミュニケーションを取ったりしました。

この事実を聞いて、なるほど、母語支援としての機械翻訳活用の場面がありうるということに気がついたわけです。タミル語という自分の母語を抑圧されていた環境から解放することができた。これは副次的な学びでした。

●機械翻訳されやすい言葉とされにくい言葉を検証

フェーズ3では、機械翻訳されやすい言葉とされにくい言葉を検証しました。「君たちが日頃仲間内で使っている言葉はどれくらい翻訳できるかやってごらん」と子どもたちに投げかけました。

そうすると、例えば「映える(ばえる)」という言葉が「Bael」となってダメでした。「エモい」も「Emo」となってダメでした。「草生えるwww」というスラングがありますが、これは「the grass grows.」で直訳は合っているんです。ただ、「草生える」というスラングは、「笑い(warai)」の頭文字「w」を重ねると「www」となって、まるで幼児が書いた草原の絵のようだということから、「草生える=大爆笑」という意味なのですね。それが「the grass grows.」と翻訳されてしまって、これは失敗なわけです。

それから、「ワンチャンあんじゃね?」は、ワンモアチャンス、可能性はゼロではないとか、もうちょっと挑戦する機会があるというようなニュアンスで使うわけですけど、これが「It’sadoggy.」と訳されてしまった。「ワンチャン」が「ワンちゃん」になってしまったという事例です。「ワンちゃん」をdogではなくdoggyと訳したこの機械翻訳もすごいなと思ったんですが、これも誤訳ですよね。

ただ、「笑笑(わらわら)」と子どもが言ったら、この当時ですら「LOL」と翻訳できてしまったんです。lots of laughsとかいろいろな訳がありますけれども、大爆笑を表すスラングです。つまり「草生える」と「LOL」とはほぼ同じ意味なんですね。こういったことができてしまった部分もありますが、大半はうまくいきませんでした。

そこで、「じゃあ君たちが『映える』というのはどういう場面で使うの?」と子どもたちに聞くと、「美しいとかかっこいいとかって意味だよね」と言うので、じゃあそうやって言ってごらんと翻訳させると、美しいはBeautifulに、かっこいいはCoolと翻訳されるわけです。そうすると「それが、君たちが『映える』という言葉で伝えたかった言葉のコアだよね。核だよね。そういうふうに、自分や仲間内でしか通じないような言葉ではない言葉を使った方が伝わる場面があるんだよ」という国語の学びになるんですね。

こういう学びをした後の子どもの感想がこれです。「国語の勉強にもなる」「はっきりした口調で話すべし」「外国の人と話すなら略さずにそのままの意味で伝える」。これはつまり、仲間内で言うような言葉ではなくて、わかりやすい言葉に言い換えた方がよいと気づいているわけです。こういった母語を客観視する学びがここで生まれているわけです。

●機械翻訳機で対人コミュニケーションを実践

フェーズ4では、これまでの学びを活かしながら、ポケトークをグループに1個持たせて、「10分間、ALTとコミュニケーションをしていらっしゃい」というミッションを与えました。子どもたちは、自分たちで考えた翻訳されやすい日本語でポケトークに質問をして、英語で返してもらうという活動をしたのです。

そうすると面白いことに、子どもたちは最初はポケトークで質問をするのですが、ALTの英語の返答に対して、ポケトークの反応が出る前に頷いて理解していたりするんです。さらに、それに対して自分なりに英語で返すというような場面もあったりします。ポケトークにかじりつきになるかなと思ったら、意外とそうでもなかったという実態がありました。

また、振り返りの感想の中で、「ポケトークで○○先生と話したことで、自分との共通点や好きなものを深く知れてよかった」と書いてありました。つまり、このコミュニケーション活動をすることによって、ALTの人となりに深く近寄ることができたという感覚があるわけです。

そして、「ポケトークだと会話中のリアクションがない」、これはタイムラグがあるからですね。やっぱりできるならポケトークなしで英語を覚えて会話したいと子どもたちは言っているわけです。会話が盛り上がってきて、もっと聞きたいという雰囲気になってくると、この間がまどろっこしくなってくる。だから、自分の言葉で言ってみたいという振り返りを書いている子たちがいました。

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