日本翻訳連盟(JTF)

通訳者の語学&専門知識獲得術(前編)

講演者:通訳者 齋藤 亜生子さん

日本翻訳連盟主催の2025年翻訳祭から選りすぐった講演の抄録をお届けします。今回からは、日本会議通訳者協会(JACI)会員でフリーランス通訳者の齋藤亜生子さんによる「通訳者の語学&専門知識獲得術」を2回に分けて掲載します。

  • 語彙を増やす
  • 発音を習得する
  • 専門知識を詰め込む

上記のアジェンダでお話された中から、前編では、ご自身の長年の経験を踏まえて、通訳者はもちろん翻訳者にも有益な「一般的な語彙の習得方法」を中心にお話いただきました。

●はじめに

日本会議通訳者協会(JACI)の齋藤亜生子と申します。

日英通訳者として活動する中で実感するのは、英語学習には終わりがないということです。特に単語や発音の習得は、常に継続しなければならない職業上の課題でもあります。これまでの学習経験を踏まえ、私自身が特に効果を感じた語彙の習得方法をお伝えします。

次に、専門知識をどのように獲得しているかについてお話しします。日々の通訳業務の準備として、専門分野の知識を一定レベルまで勉強していく必要があるのですが、使える時間は限られているため、じっくり学ぶというよりは文字通り「詰め込む」作業になります。そんな中で実際にどんな準備をしているのか、具体的な方法をご覧いただきながら、皆さんの知識や語彙・単語の獲得に役立てていただければ幸いです。

本題に入る前に、簡単に自己紹介をいたします。学校での英語学習は高校が最後で、特別な英語教育を受けてきたわけではありません。大学の専攻も英語ではなく、留学もしていません。初めて専門的に英語を学んだのは、就職後にサイマル・アカデミーの通訳コースを受講した頃でした。

その後、数社での社内通訳を経て、現在はフリーランスの通訳者として活動しています。もともと自動車、再生可能エネルギー、蓄電池などの企業で社内通訳をしていましたので、得意分野も自動車、製造業、再生可能エネルギー、蓄電池に加え、半導体やIRといった社内通訳で培った知識が生きる分野になりました。

単語学習については、先ほど申しました通り全くの純国産ですので、常に覚えるべき単語や熟語が山のようにあります。せっかく覚えたとしても、生活の中で自然と身に着けた単語ではないので、使わなければすぐに忘れてしまいますし、ようやく覚えたのに肝心の発音が違っていた……という苦い経験もあります。

翻ってフリーランス通訳という職業は、日々全く異なる分野を扱うことが多々あります。例えば、月曜日に種苗、翌日は計測機器、週の半ばに原子力を扱ったと思えば、翌日はITや化粧品……といったように、日替わりで多種多様な分野の用語を短時間で覚える必要に駆られます。

用語と知識の獲得において、対応実績がある分野であればゼロから学習しなくてもよいので負担は少なくなります。一方、未知の分野の場合は一から勉強しなければなりません。しかも割ける時間は限られているため、テスト勉強さながらのピンチに陥ることもしばしばです。今回は、その限られた時間の中でいかに効率よく単語を習得するかをテーマに、試行錯誤を経て自分なりに効果があったと思うものをご紹介したいと思います。

●自分に合った定着方法と素材を見つける

暗記の方法は人それぞれです。音読がいい人もいれば、紙に書くのがいい人、聞いて覚えるのがよいという方もいます。また、人に説明することで「話して覚える」タイプの方もいらっしゃるでしょう。私は紙にも書きますが、どちらかというと聞いて覚えるタイプで、音としてのインプットが定着しやすいと感じています。

本セッションではさまざまなアイデアをお伝えしますが、ご自身の暗記スタイルに合いそうなものや「試してみたい」と思えるアイデアが一つでも見つかれば大成功だと思っています。ぜひそうした視点でお読みください。

さて、覚えた情報をさらに定着させるにはどうすればよいでしょうか。単語や知識を一度は記憶しても、定着しなければ自分のものにはなりません。単語が本当に身についたと言えるのは、通訳のアウトプットを出す数秒の間に頭に即浮かぶほど、アクティブボキャブラリーになった時だと思っています。

一度覚えても、忘れてしまっては語彙が増えないため、いかに定着させるかが鍵になります。皆さんもご自身の扱う言語でさまざまな工夫をされていると思います。私の場合は上図のように、まず「目で見て文字として記憶」し、次に「耳で聞いて音として記憶」します。そしてこのプロセスを繰り返します。耳で聞いた後にもう一度スペルを確認し、スペルを見ながら再度耳で覚える――長年の英語学習の中で、この往復が私にとって最も効果的だと分かってきました。

つまり私にとって理想的な教材の条件は、「目で見られる文字(できれば日英表記)があり、さらに耳で聴ける音源があること」です。

また、繰り返し行う作業だからこそ、後で何度も復習しやすいフォーマットであることも大切です。「少し時間が空いたから勉強しよう」と思った時にすぐに取り出せるような、スキマ時間に活用できる素材が自分に合っていることも見えてきました。

これはあくまで私の例ですが、ご自身の「定着パターン」を把握しておくと、自分に最適な学習方法から教材を選びやすくなります。ご自身の覚え方の癖や定着パターンを知り、それに合わせた教材を選ぶことが重要なポイントになります。

●一般的な語彙を増やす

語彙を増やすアプローチとして、ここでは「ターゲット言語の一般的な語彙を増やす」方法と、通訳案件に向けた「専門用語をどう増やしていくか」という2つの切り口でお話しします。まずは、一般的な語彙を増やす方法からご紹介します。

① 書籍単語集(音声付き)――さまざまな方法で定着を図れる

私にとって特に効果的だったのが、音声付きの書籍単語集の活用です。私の学習スタイルに非常によくフィットしていました。

最初にご紹介するのは、英検1級用の『文で覚える単熟語』(旺文社)です。日本で英語を学んできた方なら、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。非常にすぐれた構成で、当然ながら日英表記があり、覚えるべき単語が赤字になっているので赤シートでの学習も可能です。スマホ等で再生できる音源付きなので、いろいろなアプローチで定着を図ることができます。

出典:旺文社サイト https://www.obunsha.co.jp/product/detail/093278
アマゾン販売サイト https://www.amazon.co.jp/dp/4010932783

上の図は最新の『文で覚える単熟語』の一部です。現在はアプリをダウンロードして聴くことができますが、私が使っていた頃はCDをMP3でダウンロードしてiTuneで聴くという少々手間のかかる作業だったので、今はとても便利ですね。今回久しぶりに購入してみたのですが、アプリ上で3秒ごとの巻き戻し・先送りができるほか、再生速度も2倍まで変更可能です。倍速でクイックレスポンスの練習をしたり、速度を落としてじっくり確認したりと、色々な使い方ができそうです。

英検1級レベルの単語をまだ網羅できていない方は、通常の語彙習得用として使うのが王道ですが、すでに習得済みの方にもおすすめの活用法があります。

英語から日本語への訳出しはもちろんですが、逆に「日本語から英語へ」訳し戻そうとすると、意外とパッと単語が出てこないことがあります。

例えば、上図で丸で囲んである「conjure up」というフレーズ。英語を見れば「想起させる、想像させる、思いつかせる」といった日本語訳はすぐに浮かぶと思います。

ではその反対はどうでしょう。文中で「〜を想像させる」という日本語を英訳しようとしたとき、特に同時通訳の現場で瞬時に出てくるのは、使い慣れた馴染みのある単語に偏りがちです。結果として「imagine」や「associate」などを使ってしまい、「conjure up」が選択肢として出てこないということが起こります。

そこで、知識を使える語彙(アクティブボキャブラリー)にするために、フレーズごと何度も聴いて耳で覚え、「この文脈なら conjure up だな」と自然に引き出せるよう定着させていきます。さらに、そうして覚えた言葉を仕事で実際に使うことができれば、より強固に定着します。ぜひ試してみてください。

② 書籍(音声付き)――発音を習得しながら語彙を自分のものにする

もう一つのアプローチも、音声付きの書籍の活用です。『CNN ENGLISH EXPRESS』は、私が駆け出しの頃からよく練習に使っていた教材で、創刊から何十年も愛されている雑誌です。こちらもアプリで音源を再生できるようになっていて、CD時代と比べて本当に便利になりました。もちろんすべての音声に対して日英の対訳が掲載されています。

出典:https://ee.asahipress.com/latest-issue/2025/08/
出典:https://ee.asahipress.com/common/issues/2025/08/documents/interview.pdf

上図は2025年8月号誌面の一部で、出版社のサイトから引用したものです。左ページに英語、右ページに日本語、中央の枠内に注目の語彙が列記されていて非常に見やすいです。

『CNN ENGLISH EXPRESS』の名の通り、掲載コンテンツはニュースやインタビューなど旬な話題が中心です。米国大統領の就任演説や一般教書演説、話題の経営者や政治家の発言など、時事性の高いテーマや最新用語が豊富に含まれていて、生きた英語をキャッチアップするという点でも便利だと思います。

何より音源があるため、音で聴いて聞き取れなかった部分を文字で確認して、正確な発音とあわせて語彙を身につけることができます。

実際、ここで学んだトピックや経営者のインタビュー内容が、後に通訳案件でそのまま役立ったということが何度もありました。こうした「勉強しておいて良かった」という実感は、大きなモチベーションにもなります。

『CNN ENGLISH EXPRESS』に限らず、アルクの『ENGLISH JOURNAL』やNHKの英語講座テキストなど、似たフォーマットの音声付き教材は数多くあります。ご自身にとって扱いやすく、仕事への実用性やモチベーションにつながる素材を探してみてください。

余談ですが、サイマルに通っていた頃、講師の先生がお薦めしてくださったNewsweekを購読したことがあります。しかしフォーマットが日英併記ではなかったために、英語版と日本語版の2冊を買うという金銭的な負担が大きかったことに加え、英語版の記事が必ずしも日本語版に掲載されているわけでなく、訳語の突き合わせができないことがあり、面倒になってやめてしまいました。

またこんなこともありました。サイマルの同時通訳クラスを受講していた際、講師で通訳界の巨匠・小松達也先生から「TIME誌を読むと洗練された時事表現や語彙が増えますよ」と助言をいただいたことがありました。しかしTIMEは日本語版がそもそもないため、瞬時に意味が掴めなかったり、良い和訳が思い浮かばなかったりした際に答え合わせができず、やはり長続きしませんでした。その時の自分にTIMEは時期尚早だったのだと思います。今になって当時を振り返ってみると、自分のレベル・学習ステージに合った教材を選ぶことがいかに大切かを実感します。

③ ニュースレター――時事英語に強くなる

3つ目はニュースレターの活用です。ほぼ無料で時事英語に強くなる方法としておすすめです。

主要なニュースメディアの多くが、無料で登録できるニュースレターを配信しています。ニュースレターの魅力は、見出しとそれに続く短い説明文で要点をコンパクトに伝えてくれる点です。本来は記事本編へ読者を誘導するためのものですが、よく練られた表現であることが多いので、私たち学習者にとっては短いわりに洗練された表現をスキマ時間に学習できるよい教材です。

素材はニュースですから、タイムリーな話題を追うことができるため、日本と海外両方のニュースレターを登録しておいて、日英両方の表現を押さえるのがおすすめです。「ここぞという場面で使いたい」「上手な言い回しだな」と思ったものをメモしておくのも良いでしょう。

また、ニュースレターはメールで受信するので、移動中などの合間時間にサッと確認し、気になった表現をスマホのメモ機能に保存しておくといった使い方ができて重宝します。

上の図は私のメール受信箱です。「NEWS」フォルダの中に、登録しているニュースレターがずらっと出てきます。今登録しているのは、 The Japan Times、朝日新聞、ハーバード・ビジネス・レビュー(日本語版)、The Economist、The New York Times などです。末尾に参考資料としてあげておきます。皆さんも好きなものを選んでみてください。

私の登録ニュースレターのうち一つクリックしてみると、下の図のようになっています。

左側は朝日新聞のニュースレターで、見出しが並んでいます。ここから「記事を読む」をクリックすると、有料会員でなくても最初の数百文字は無料で読めるようになっているので、興味があったり仕事に関連しそうなものであれば、読み進めるのもいいと思います。

右側は The Japan Times のニュースレターです。朝日新聞と同様に、見出しと短い説明文が載っています。新出語彙や時事用語の確認はもちろん、通訳のクイックレスポンスの練習にも役立ちます。

例えば、上図の「Trump gives formal blessing to Nippon Steel’s…」という見出しを見たら、「トランプ大統領が正式承認、148億㌦USスチール買収」と意味の通る日本語に訳せるかどうか自分で確認してみます。日本語の記事も同じで、この見出しを英語にするならどの単語を使うかな、というような練習をします。

ちなみにこの見出しが出ていた頃は、トランプ政権下で日本製鉄によるUSスチール買収が話題になっていた時期で、私はこのニュースで出てくる『黄金株』の黄金がgold だったか、それともgolden だったかな、とあやふやになっていた頃にこの見出しがあったので、図らずも良い復習になりました

④配信のドラマ・映画――楽しみながら定着させる

最後は、私自身がとても楽しみながら実践している動画配信サービスを活用した方法です。映画やドラマ、音楽を使った語学学習は昔からの定番ですが、最近は何といっても動画配信サービスの活用がおすすめです。

理由は、音声も字幕も、英語を筆頭に多数の言語にクリック一つで切り替えられるうえ、10秒単位での巻き戻し・早送りもできるので、聞き取れるまで何度もリピート再生する作業をストレスなくできるからです。字幕が充実している Netflix や Disney+ などが特に便利です。

なお、テレビ画面のインターフェース(UI)よりも、パソコンのブラウザの方が細かい巻き戻し・再生作業を画面上のボタンやマウスで操作しやすいので、学習目的で視聴する際はパソコンをおすすめします。

具体的には私の場合、まず対象とするドラマや映画を1作品選びます。選ぶ基準は「聞き取れないシーンがあったら悔しいと思えるほど大好きな作品」であること。そして「共感できる登場人物がいて、この人物のセリフや単語を自分でも使ってみたいと思える作品」です。何十回と見返して、セリフや単語を自分のものにすることが目的ですので、作品は1つあれば十分です。

使いこなしたいセリフや単語を決めたら、トイレやお風呂の中、散歩中など、1人になれる時に、役になりきって抑揚や発音を練習して自分のものにしていきます。

こんな方法で、昔はiTunesで動画ファイルをダウンロードして学習していました。当時は主に欧米の英語作品でしたが、コロナ禍の韓国ドラマの大ブーム到来で私もすっかりその波に乗り、韓国ドラマを見るようになりました。とはいえ、私は韓国語通訳ではないので、普通に日本語字幕で見てしまっては勉強にならないと思い、そこで始めたのが英語字幕で見るという方法でした。

『愛の不時着』のような大ヒット作になると、十数言語の字幕が用意されています。ご自身が学習・使用している言語の字幕に切り替えることで、優秀な教材に早変わりします。私は必ず英語字幕付きだけを視聴するので、どんなに評判の良い作品でも英語字幕がないものは見ていません。

視聴中は、英語字幕を見ながら心の中で日本語の即興アフレコ(訳出し)をしていきます。パッと適切な和訳が出てこない単語や言い回しがあればメモを取り、パッと出てくるまで何度も繰り返します。瞬間的に、短くても意味が通るセリフにすることが求められるので、同時通訳の練習にもってこいです。

ドラマや映画は法廷もの、時代もの、医療もの、ビジネスものなどジャンルが多岐にわたるため、それぞれに応じた語彙や言葉遣いを学べます。例えば時代劇なら、格調高い日本語の挨拶表現、法廷・医療ものなら基本的な専門用語の習得に役立ちます。

そしてここで終わりにせず、もう一歩踏み込んでさらに視聴で学んだ語彙の定着を目指します。当該作品についてネイティブスピーカーが熱弁しているポッドキャストを聴くことです。

どういうことかというと、一度視聴した作品についてネイティブが英語で語る、つまりリフレーズされた英語を聴くことで表現の幅が一気に広がります。例えば、登場人物の性格描写からは豊富な形容詞が、状況説明からは副詞やイディオムが学べ、知ってはいたけれど使いこなせていなかった語彙を、積極的に使うアクティブボキャブラリーに昇華させることができます。

参考資料として、おすすめのポッドキャストを載せておきます。いずれも英語ネイティブが韓国ドラマを様々な角度から解説している番組で、人気作品はかなり網羅されています。興味のある方はぜひ聴いて、更なる語彙強化を目指してみてください。(後編につづく)

参考資料:ニュースレター
The Japan Times https://www.japantimes.co.jp/email-newsletters/
朝日新聞 https://digital.asahi.com/support/mail_service/index.html?ref=ret_faq_nl
Harvard Business Review https://hbr.org/email-newsletters
The Economist Newsletters https://www.economist.com/newsletters
The New York Times https://www.nytimes.com/newsletters
日経新聞(有料会員のみ) https://regist.nikkei.com/ds/setup/briefing.do

参考資料:Podcast
Kdrama chat https://podcast.app/k-drama-chat-p6046774
Evie’s Korean Drama Podcast https://podcast.app/evies-korean-drama-podcast-p817408

◎講演者プロフィール

齋藤 亜生子(さいとう あきこ)

通訳者・一般社団法人日本会議通訳者協会(JACI)会員

上智大学仏文科卒、東京学芸大学大学院国語教育専攻中退。米国公立学校で日本語教育に従事後帰国。通訳養成機関受講後、現在は自動車、半導体、IR、再生エネルギー、ビジネス分野を中心に通訳。

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