日本翻訳連盟(JTF)

私の一冊:『GIRLS NOIR ガールズ・ノワール ハードボイルドよりも苛烈な彼女たちのブックガイド』

第71回:英日翻訳者 廣瀬 麻微さん

『GIRLS NOIR ガールズ・ノワール ハードボイルドよりも苛烈な彼女たちのブックガイド』霜月蒼著、左右社、2025年

ミステリが好きだ。特に女性または少女たちが、社会や暴力から自分や他者の尊厳を守るために闘うクライム・フィクションが好きだ。読むのがつらい作品もある。でも、やめられない。昔はそれがよくないことだと思っていた。「女の子はそんな暴力的な小説を読むもんじゃない」と家族に言われ、恥ずべきことなのではと悩んだときすらあった。

そんなわたしに、答えと希望を与えてくれたのがこのブックガイドだ。

いやなことはいやだと言っていい、理不尽に抗っていい、つねに笑っていなくても、怒りたいときは怒ってもいい。残酷な世界に銃口を向ける「ガールズ」たちの物語は、知らぬ間にそれを教えてくれていた。だからわたしは、彼女たちの物語をこんなにも愛しているのだ。

傷だらけになりながらも闘う彼女たちの姿はあまりにまばゆい。彼女たちの物語を読んだ者の胸には、小さくあたたかな火が灯る。ミス・マープルが、リスベットが、爪角やピップがつないでくれた灯火のバトンを、次世代の読者にも届けなければならない。それをわたしの翻訳者としての使命としよう。そう決意させてくれた本だった。

梅原いずみ氏の解説も、巻末の49作に及ぶ追加のミニガイドもすばらしい。全国の学校図書館に置いておいてほしい一冊だ。

◎執筆者プロフィール
廣瀬 麻微(ひろせ あさみ)
英日翻訳者。翻訳ミステリー南東京読書会世話人。主な訳書にケイヴィオン・ルイス〈怪盗ギャンビット〉シリーズ(KADOKAWA)など。ホリー・ヘップバーン『シャーロック・ホームズは引退しました』(東京創元社)が2026年5月刊行予定。友人の翻訳者たちとともに翻訳同人誌「LETTERS UNBOUND」を制作中。

★次回は英日翻訳者の武居ちひろさんに「私の一冊」を紹介していただきます。

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