AI翻訳があるのに、なぜ英語を学ぶのか?(2)
講演者:厚木市立鳶尾小学校 総括教諭 成田 潤也さん
●児童作成の「機械翻訳マニュアル」と「やさしい日本語マニュアル」の共通点
フェーズ5は、こういった学びをラップブックという形式のポートフォリオにまとめました。厚紙にプリントを貼っていって1冊の本のような形にする取り組みです。

「この学びがすべて機械翻訳マニュアルだね」と子どもたちに返そうと思ったのですが、これをまとめる段階でちょうどコロナ禍に入って休校になったため、モノクロでちょっと寂しい感じになってしまいました。この記述を細かく見ていくと、機械の使い方だけではなく、「言い換えをしないと正しく言ってくれない」「早口で言っちゃダメ」「ゆっくり話した方がいい」など、子どもたちはちゃんと本質を捉えていました。
このような記述をまとめていくと、あることに気づきます。それは、子どもたちの「機械翻訳マニュアル」と「やさしい日本語マニュアル」(豊橋市多文化共生・国際課)の共通点です。

短く簡潔な文章がいい、ゆっくりはっきり発音した方がよい、流行り言葉や固有名詞や同音異義語は翻訳されづらいから別の表現に言い換えた方がいいといった子どもたちの学びは、まさに「やさしい日本語マニュアル」で語られていることと同じなんです。機械翻訳されやすい日本語というのは、調整された日本語という意味のやさしい日本語と非常に親和性が高いということが見て取れます。
「やさしい日本語」を普及啓発されている元電通社員の吉開章さんという方も、ご自身の発信の中で「やさしい日本語をマスターすると、それはAI翻訳の時にも役に立つ」と、逆の方向から同じことを言っています。
●機械翻訳を介して外国語の学びと国語の学びを相互に補完
実践授業①からわかることとしては、次のようなことが挙げられます。
・機械翻訳を介したコミュニケーション活動を行うことで、まずコミュニケーションの心理的なハードルが下がる。
・英語のみではなく多様な外国語への関心を促すことができる。
・「翻訳されやすい日本語」の特徴を検討していく過程で、母語を客観視する学びができる。
・どうやったら伝わりやすいかという相手の立場、他者意識を考えたコミュニケーションのあり方について体験的に学ぶことができる。
翻訳機があることによって、いざとなったらこれに頼ればいいという安心感がある。お守り代わりですね。そしてボタン1つでさまざまな言語に切り替わりますから、非常に便利です。
このような教育効果が期待でき、外国語の学びと国語の学びを、相互に補完し合うような学びに昇華させることができたという実感があります。
●校外での機械翻訳を介したコミュニケーション活動と振り返り
授業実践 ②
授業実践の2つ目は、別の小学校にご協力いただいて、6年生65名の修学旅行にポケトークを持って行ってもらいました。この学校では例年、子どもたちが修学旅行先の日光東照宮について調べたことを観光客にプレゼンするというミッションがあり、その対象者に日本人だけではなく外国の観光者も加えようという取り組みです。
15の班それぞれにポケトークを1台渡して、日光東照宮に来訪した外国語話者(英語話者とは限らない)に言語を選んでもらい、コミュニケーションをするという活動をし、活動後に、次の3つの問いからなる振り返りワークシートを書かせました。
(1)ポケトークを使って外国人と話してみて思ったこと(難しかったこと/良かったこと)
(2)ポケトークを活用していくなら、今後どんな場面でポケトークを活用できそうか
(3)ポケトークのようなツールがあれば、外国語の学習は必要ないか
その振り返りワークシートの中には、例えば「難しかったことは?」の問いに対して、「外国人が怖かった」と答える子がけっこういました。日本人の子どもたちは、外国人に触れる機会がほとんどないので、怖いという印象があるわけです。
一方で良かったこととしては、「失敗したり間違えたりしても優しく受け入れてくれるなど、会話をすることで外国人の優しさや温かさを感じられた」と、とてもいいコミュニケーション活動をしてきているわけです。また、「交流ができて楽しかった」「最後まで話せてよかった」、そして「最初の方は自分たちでしゃべってみて、難しい言葉をポケトークに補ってもらった」というようなことが書いてありました。
次の問いの「ポケトークがあったら、今後どんな場面で使えると思うか」には、「英語スピーチの練習、単語の勉強、発音の練習」など、学習に使えると答えてきたんです。
そして、ポケトークがあれば、外国語の学習は必要ないかという、結構本質的なちょっと突っ込んだ3問目の質問には、大半の子がそれでも必要だと答えました。その理由は、「ポケトークでは変換しきれない言葉があった」「自分自身の言葉で伝えることにやっぱり意味があると思う」と答えていました。
ただ、3人ほど「必要ない」と答えた子たちがいました。その理由は何かというと、「テストの勉強は必要ない」と。なるほど、と思いました。テストの点数を取るために英語を勉強するんだったら、そんなものは必要ないと答えたわけです。その子たちも、「でも、簡単な言葉は言えた方がいい」と書いてありました。やはりその体験というのは非常に大きな価値をこの子たちにもたらしたんだろうと思います。
この授業実践②から見えることは、機械翻訳を取り入れることで従来と全く逆の学習プロセスが成立し得るということです。
今までであれば、外国語学習をした成果として交流活動が設定されていました。ところが、機械翻訳があると、かなり初期の段階でまず交流活動が成立します。そうすると、「この相手ともっと喋りたい」あるいは機械翻訳に頼らなくてはいけなかったのを、「もっと自分でも言えるようになりたい」というモチベーションが高まって、それが外国語学習につながっていく。目的がこちらの方がはっきりしてるのではないかと思います。

もちろん、この活動をするためには、事前に機械翻訳の使い方をレクチャーする必要がありますが、これをうまく使うことによって、その後の外国語学習への意欲を一層向上させることができるのではないかという示唆が得られたわけです。
●機械翻訳使用は児童の外国語学習意欲をむしろ高める
この研究を総括します。先に3つの研究課題があると申しました。
① 機械翻訳技術の向上を前提にした場合、外国語教育が果たす教育的意義は何か。
⇒言語の俯瞰視、人権意識の獲得、人間関係形成。
まず、言語の俯瞰視です。母語を客観視し、もう1つの言語と比較する活動ができる。そして、人権意識、人間関係形成です。相手意識を持ってコミュニケーションを取るという体験をすることができます。
② 研究課題①の意義を満たすような、小学校外国語教育の指導内容はどうあるべきか。
⇒外国語話者とつながる体験を重視。
やはり外国語話者とつながる体験が重視されるべきでしょう。これは対面であれば最高です。そしてALTがそういった役割を果たす立場なんだろうと思います。また、今はオンラインでもリアルタイムにつながることもできますし、オンラインの掲示板サービスなどをうまく使えば非同期コミュニケーションを取ることができます。ツールはなんでもいいと思いますが、やはりリアルにその言語を使う、話者とコミュニケーションを取るという経験は絶対不可欠だろうと思います。
③ 外国語教育と国語教育は、同じ言語の教育として相互に影響を及ぼすか。
⇒相互に補完し合い、より豊かな「ことばの学び」に。
これは完全に相互に補完し合い、より豊かな言葉の学びに昇華していくと確信しました。
そして裏のテーマ、「機械翻訳使用は、児童の外国語学習意欲を減じるか?」については、「減じるどころか、むしろ高める」方向に作用していると確信しました。
(第3回につづく)
◎講演者プロフィール

成田 潤也(なりた じゅんや)
厚木市立鳶尾小学校総括教諭。公立小学校教諭として15年勤務した後、横浜国立大学大学院に2年間現職派遣。教育学修士号(英語教育)を取得後、神奈川県教育委員会指導主事を3年間務め、2022年度から現職。AI翻訳時代における小学校外国語教育の在り方について発信を続けている。「機械翻訳を介しての外国語と国語の横断的学習に関する研究」で、博報堂教育財団第14回「児童教育実践についての研究助成事業」優秀賞。
著書に『マンガでサポート!他教科コラボの“ChaChat英語”英語が苦手!?な担任でも創れる小学校外国語活動』(学芸みらい社)、日本経済新聞の動画コンテンツ「NIKKEI Film」およびYouTubeにて小学校5年生に向けた特別授業「AIあるのに、なんで英語勉強するの?」を公開。
