AI翻訳があるのに、なぜ英語を学ぶのか?(3)
講演者:厚木市立鳶尾小学校 総括教諭 成田 潤也さん
●ヒンディー語で手紙を書いた子どもたち
このことを考えて、私は授業で英語だけではなくさまざまな言語を取り入れます。中国語のクイズを英語でやったりもするんですけど、数年前に本校に来てくださったALTはインドのヒンディー語話者でした。この方と授業をする中で、私は子どもたちに、「ひらがな書けるでしょ。英語も勉強したよね、書けるよね。じゃあALTの先生に読んでもらえるように、ヒンディー語のデーヴァナーガリーという文字を覚えて書いてみようよ」と提案しました。

この一番下は、ヒンディー語で「なりたじゅんや」と書いてあります。
子どもたちに、変換サイトを使って自分の名前をこのデーヴァナーガリーで書いて、それをALTの先生に見せて読んでもらい、OKをもらって帰ってくるというミッションを課したことがあります。子どもたちはとても喜んでいました。
また、そのヒンディー語話者の先生には、インドの学校のこと、生活のことなど、いろいろなことをお話ししていただきました。一番盛り上がったのは、その先生のご自宅にあるカレー用のスパイスを全部持ってきてもらった時です。
インドの方のスパイスセットって、我々が想像する、小箱に入っているようなものじゃないんです。本当に大きな箱にドーンと入っていて、それを全部持ってきて「これはターメリックで、これはガラムマサラで…」と英語で全部説明してくださいました。子どもたちは、「カレーの匂いがする」などと言いながら、盛り上がって聞いていました。おそらくあの当時、日本で最もインドに親近感を抱いた子どもたちに育ったんじゃないかなと個人的には思っています。
その子どもたちが、年度末に担任の先生に促されて、「1年間教わったお礼のお手紙を書きましょう」と言われたらしいのです。この時に、私が指示したのではなく子どもたちが自発的にやってきたことなのですが、翻訳サイトを使って、なんとそのALTの先生にヒンディー語で手紙を書いてきたんです。カメラ翻訳すると、「今年もありがとうございました。今ではヒンディー語も少し書けます」と書いてあります。

それも1人じゃなく、複数の子がヒンディー語で手紙を書いてきたのです。これを受け取ったALTの先生は非常に驚かれて、「こんな手紙を受け取ったことはない。子どもたちに”ビューティフル・ヒンディー”だったと伝えてほしい」と言って、ニコニコして帰っていかれました。
これを英語教育の成果かと言われたら、明らかに違いますね。子どもたちが自分で作った文でもないんです。日本語の文は自分で考えましたけど、翻訳はあくまでAI翻訳を使ったわけです。けれども、子どもたちは相手の母語に対して敬意を払い、自分の感謝を相手の母語で伝えようと思った。外国語教育で私が伝えたかったことは、きちんとこの子たちに伝わったなと、とても誇らしく思った瞬間でした。
ネルソン・マンデラはかつてこんな言葉を残しています。

相手の知っている言語で話しかければ、それは相手の頭に届く。しかし、相手自身の言語で話しかければ、それは相手の心に届く。
ヒンディー語で手紙を書いた子どもたちは、この言葉に表されている理念を見事に体現してくれたと思っているところです。私は、この言葉もやはり私の「WHY?」、なぜ外国語を学ぶのかという理由の1つにしています。
こういったことを考えながら、小学校5年生に対しての特別授業で「AIがあるのになんで英語勉強するの?」という哲学的な対話を行いました。その様子を日本経済新聞が取材してくださいまして、動画がYouTubeに公開されています。
https://www.youtube.com/watch?v=ZF7T2MLUvHA
公開6か月を経て22万再生を超える状況で、Google検索で「AI 英語」と動画検索すると、おそらくトップ5にこの動画が出てくるまでになっていました(2025年秋講演当時)。これは私の授業がすごかったと言いたいわけではなくて、それだけ日本国民がこのテーマに対して、今ものすごく注目しているということです。大きな転換点を迎えているこの問題に対して、我々は正対していかなければいけない。そういう過渡期に立っていると思います。
●言語習得の先にある価値
そして、AI翻訳があってもなお外国語を学ぶ理由として、先ほどのゲーテの言葉やネルソン・マンデラの言葉に表される、言語をマスターするだけではなく、その先にある価値というものを子どもたちに伝えていきたいと思っているところです。
最後にもう一度、子どもたちの素朴な問いを投げてみようと思います。
「AI翻訳がこれからどんどん性能が良くなっていくんだから、外国語(英語)を勉強する必要は無くなるんじゃないですか?」
この問いに対して、答えをなかなか見出せなかった方に、「こうかもしれない」と思っていただけたらとても嬉しいことですし、もともと答えがあった方が私と同じ考え、あるいは考えがアップデートされたとするならば、本日お話ししたことは意義があったのかなと思います。ご清聴ありがとうございました。
◎講演者プロフィール

成田 潤也(なりた じゅんや)
厚木市立鳶尾小学校総括教諭。公立小学校教諭として15年勤務した後、横浜国立大学大学院に2年間現職派遣。教育学修士号(英語教育)を取得後、神奈川県教育委員会指導主事を3年間務め、2022年度から現職。AI翻訳時代における小学校外国語教育の在り方について発信を続けている。「機械翻訳を介しての外国語と国語の横断的学習に関する研究」で、博報堂教育財団第14回「児童教育実践についての研究助成事業」優秀賞。
著書に『マンガでサポート!他教科コラボの“ChaChat英語”英語が苦手!?な担任でも創れる小学校外国語活動』(学芸みらい社)、日本経済新聞の動画コンテンツ「NIKKEI Film」およびYouTubeにて小学校5年生に向けた特別授業「AIあるのに、なんで英語勉強するの?」を公開。
