日本翻訳連盟(JTF)

2026年度 日本翻訳連盟定時社員総会 基調講演
AI翻訳、進歩したからこそ必要なこと

特集では2回にわたって、2026年6月9日に行われた日本翻訳連盟定時社員総会 基調講演「AI翻訳、進歩したからこそ必要なこと」をお届けします。今回は第1部、日本翻訳連盟(JTF)の二宮俊一郎会長より、今年実施した「機械/AI翻訳の利用に関する調査結果」を報告します。次回の第2部では、高橋聡JTF副会長より「加速度的に進歩するAI時代に通訳・翻訳業界が考えるべきこと」を提言していただきます。

第1部 機械/AI翻訳の利用に関する調査結果
講演者:日本翻訳連盟会長/株式会社翻訳センター代表取締役社長 二宮 俊一郎

第2部 加速度的に進歩するAI時代に通訳・翻訳業界が考えるべきこと
講演者:日本翻訳連盟副会長/実務翻訳者 高橋 聡

付記――今後の大規模調査実施のために

第1部 機械/AI翻訳の利用に関する調査結果
講演者:日本翻訳連盟会長/株式会社翻訳センター代表取締役社長 二宮 俊一郎
●一般ビジネスユーザーにアンケート調査を実施

日本翻訳連盟(JTF)会長の二宮俊一郎でございます。第1部は私から、アンケート調査結果のご報告です。

この調査の背景には、MT(機械翻訳)、AI翻訳の性能向上と普及がありますが、それらはいずれも正確性を保証するものではありません。その中で、ユーザーの方がきちんと誤訳可能性を認識しているのかどうか。そして、その認識に基づいてきちんと修正作業をやっているのかどうかというところを調べたい、という目的でこの調査を行いました。

したがって、翻訳の専門家ではない、一般のビジネスユーザーの方が調査の対象となります。JTF一般会員の方は対象になりませんので、法人会員の方々にご協力いただき、各法人会員から顧客企業にアンケート回答を依頼していただきました。その結果、209名の方にご回答いただいています。

このような調査は、おそらく回答率が1パーセントに満たないと思います。ですから今回は法人会員の皆様から、総数でおそらく2万、もしかしたら3万を超えるぐらいのアンケート依頼のご連絡をしていただいているのではないかと推測します。本当に皆様、ご協力いただきまして誠にありがとうございました。その結果、209名の方々にご回答いただきましたので、正確な調査になっているのではないかと思っております。

【調査概要】
対象:一般の事業会社の方々(翻訳の専門家ではない方々)
募集方法:JTF法人会員から顧客企業へ回答依頼
募集期間:2026年4月30日~5月22日
総回答者数:209名

●8割以上が業務で機械/AI翻訳を利用

アンケート調査の1問目に、「業務で機械/AI翻訳をどのくらい使用していますか」と聞いています。下図のように、「ほぼ毎日」使うという方が118名、「週1回程度」使うという55名の方も加えますと173名、82パーセントになります。過半数超える方が日常的にMTを使っているということが、現在の状況としてひとつ言えると思います。

●有料と無料AIツールの使い分け

続いて2問目、「翻訳に利用しているAIツールは何ですか」という設問です。一番多い回答が下図のように「無料翻訳専門アプリ」です。次に「有料生成AI」です。単機能の翻訳には無料ツールの利用が多く、LLM(大規模言語モデル)になると有料ツールが多いというのは、なかなか複雑な結果だとは思います。

私が勝手に推測しますには、おそらく有料のMTは会社に対して買ってくださいと手をあげた人だけが買ってもらえる。対して、LLMは全社導入されてしまうので、自分が希望しなくても勝手にLLMがやってくる。そういったそれぞれの環境の違いの結果ではないかと思っています。

●主な翻訳対象は「メール」「レポートや論文」

続いて、3番目の設問「機械/AI翻訳の対象となる文書の種類は何ですか」の回答です。下図の通り、一番多いのが「その他」になってしまったのですが、これは、申し訳ございません、設問の設定ミスです。

「その他」の中で一番多いのが、実は「メール」です。翻訳業界の人間として、「翻訳対象物は何ですか」という設問をしたときに、メールが頭に思い浮かばなかったのです。ただ、一般ユーザーの立場に立ってみれば、当然メールは使われますよね。次の機会があれば「メール」を入れるようにします。

メールの次に、「レポート/報告書」「論文」と続きます。このレポートや論文というのがこれまた微妙な結果で、レポートや論文をご自身で読む場合には、それほどMTのチェックはいらないと思うのです。特に概要把握をしたいときには、チェックなしでそのまま使われたらいいと思います。しかし、その論文やレポートを他の人に報告する、提出する場合には、チェックが絶対必要になると思います。要するに、その文書の種類だけではなく、「誰が読むのか」というところが非常に大事になってくると思っています。

●翻訳の対象/目的は「自分が読む/内容把握」が7割

そこで、次の設問で「翻訳した文章を読むのは誰ですか」と聞いています。下図の通り、142名、約7割の方が「ご自身」で読むという結果でした。一方、顧客、不特定多数(例えばWeb公開等)、官庁等に提出するという方が、合わせて26名で、10パーセント強と数としては少ないですが、この層の方はきちんとチェックしていただきたいと思います。

次が、「翻訳した文書の利用目的は何ですか」という設問です。一番多いのが「文書の内容把握」で155名、74パーセントでした。要するに、「外国語で書かれているものの内容が自分で分かればよい」というユーザーの方々ですので、そういったケースの場合には、それほど詳細なチェックはいらないかなと思います。

一方で、プレゼン、社内会議、公官庁への申請/出願、あるいはWeb等一般公開など、要は人に読んでもらうためのものという回答が28名。比率にすると13パーセントで、こちらはやはりきちんとチェックしてほしいところです。

圧倒的に多いのは、ご自身で参照用に使うという使い方ですが、一部には他の第三者への報告用という使い方をしている方もいらっしゃるのが現状です。

●翻訳文のチェックに関する問題点

次は、「機械/AI翻訳した文書はチェックしますか」とダイレクトに聞いています。この設問に対する回答で一番多いのが、「目的に応じてチェックする」で74名。次が、「原文を参照しながら詳細にチェックする」、要するにクロスチェックするという方が61名。合わせて135名、64パーセントの方々です。「目的に応じてやる」という方々も人に読ませるときにはきちんとクロスチェックしているであろうと捉えますと、およそ半数強の方々はきちんとチェックされているのだろうと推察できます。ここは特に問題ない方々だと思います。

一方で、「チェックしない」という方が7名いました。この方々は用途によってはちょっと問題があるのかなと思います。同時に、「翻訳文だけを見てざっとチェックする」という回答が意外と多く、60名いました。

皆さんプロフェッショナルですからお分かりだと思いますが、誤訳を発見するのに翻訳文だけ見ていても、発見できる可能性は低いですよね。その意味では、この60名の方々は、誤訳を発見するという目的に照らしてみると、あまり適切な使用方法ではないということが言えるのではないかと思います。したがいまして、「チェックしない」という方と合わせて67名、32パーセントの方々は、やはりちょっと問題があるのかなと考えております。

●9割が誤訳の可能性を認識

続いて、「機械/AI翻訳は正確な翻訳だと思いますか」という質問をしています。一番多い回答が、「ほぼ正確である」で130名。「誤訳は必ずある」が58名。この二つを合わせて188名、全体の90パーセントの方々が、いわゆる誤訳の発生可能性は認識しているというのが現状です。機械翻訳、AI翻訳をそのまま信じてはいけない、そこには誤りがある可能性があると、皆さん非常に正しい認識をしていらっしゃると思っております。

●評価が分かれる流暢性

次に「機械/AI翻訳の流暢性」に関する設問です。こちらで一番多いのが「人間並に流暢である」という回答で、次に多いのが「人間には及ばないが流暢である」という回答でした。また、「人間より流暢である」という回答が15名で、「人間並に流暢である」と合わせて流暢性を非常に高く評価している方々が91名、44パーセントいます。

一方、「人間には及ばないが流暢である」が74名、35パーセントで、流暢性の全体的な評価としては非常に高いけれども、まだまだ人間には及ばないという方々がこれだけいるのも私としてはちょっと意外でした。流暢性の評価はもっと高いだろうと思っていたのですが、皆さんやはり流暢性にはこだわりがあるのか、逆に厳しい結果だったと思います。特に昨今、LLMになってきて、英訳させたときにアウトプットされる英語というのは、私などよりはるかに流暢な英語を書いてくれるので、英訳に関して言うと相当な流暢性があるんじゃないかと私は思っていたのですが、実際はユーザーの方々は意外と厳しい評価だったのかなと思います。

●正誤判断に迷ったときにどうするか

前掲の通り、正確性のところでは、完璧ではないという回答が9割でした。では、完璧ではないと疑いを持って見ている中で、「これは本当に合っているのか」と正誤判断に迷うことはありますかという質問をしました。

「たまに迷う」という方が147名。「いつも迷う」という方が23名。合わせて170名で全体の81パーセント。要するに、疑いの目を持って訳文を読み、読んでいる途中で本当にこの表現でいいのか、これ合っているのかという疑いを持つ方が8割はいらっしゃるということです。この結果からも、実際に正誤判断に迷う方は多いことが明らかになったかと思います。


では、「正誤判断に迷ったときはどう対応していますか」という質問を次にしています。ここで一番多い回答が123名の「辞書やネットで調べて確認する」で、非常に正しい行動をされている。あるいは、「語学のできる第三者に確認する」という方もいらっしゃいます。この2つを合わせて134名、64パーセントの方々は特に問題ないと思います。

一方で、「チェックしていない」、あるいは「AIを信用してそのまま使用する」という方が10名でした。少ないですけれども、当然問題があると思います。

また、「他のAIツールで翻訳して確認する」という方も53名います。他のAIで確認するというのは、もちろんエラーが発見される、あるいはエラーが修正される確率は高まりますが、それで完璧になるのかと言ったら、ならないですよね。確率を使って発生している問題をまた確率を使って解消しようと思っても、どこまで掛け算していってもゴールにはたどり着かないので何の解決にもなりません。けれども、それをやっている方は実は意外と多いという結果です。

全くチェックしないという人と合わせて63名、この30パーセントの方々は、やはり使用方法として問題があるのではないかと思います。

●調査結果のまとめ

最後に、回答者が属している業界・業種を伺っています。今回は、製薬・医療系のお客様が非常に多くいらっしゃいました。


まとめますと、まず、設問7を中心に質問した「MT/AI翻訳の誤訳可能性は認識されているか」というところでは、約90パーセントの方が誤訳の可能性を認識しています。一方、わずか5パーセントではありますが、認識してない方もいます。とはいえ、ここはおおむね良好な状況と考えて、○という評価をさせていただきました。


また、「その誤訳の発生可能性の認識に基づいて適切にチェックしているか」「修正するときにどうやっているか」という問いの結果を見ますと、「チェックしない」「訳文のみのチェック」という回答が合わせて67名、約30パーセントの方々です。これは誤訳を発見できていない可能性があります。

正誤判断に迷ったときに、「チェックしない」「AIをそのまま信用する」「他のAIで確認する」の合計63名、30パーセントの方々も修正できていない可能性があります。要するに、30パーセントの方々が誤訳可能性は認識しているけれども、そこから先の修正作業のところで若干問題があるのではないかと思われます。


以上が調査結果のご報告です。こういう状況を鑑みて、実際に今のMTでどのようなエラーが起きているのか、高橋副会長からご報告いただきたいと思います。

(第2部につづく)

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