私の一冊:『アテレコあれこれ:テレビ映画翻訳の世界』
第74回:韓日字幕・吹替・出版翻訳者 德田 晴子さん

仕事で悩んでいると、翻訳者の方が書いたエッセイを読みたくなる。数年前、初めて吹替の仕事をいただいて苦戦していた時、偶然目に留まったのが本書だった。
本書には『刑事コロンボ』などを担当された額田やえ子さんの、英語を始めた幼少期から英語を禁止された戦時中のこと、翻訳の仕事に関して書かれている。出版された当時は翻訳をとりまく環境が今と全く違っていた。台本を作る時は、左手でリモコンを持ちビデオを操作し、右手で原稿用紙にト書きやセリフを書きこんでいく。辞書に載っていない単語は電話で友人に相談し、詳しそうな知人を紹介してもらって訳語を導き出す……納期が迫るなかで、そうして地道に翻訳を進められる描写には頭が下がる。
そんな大先輩が編んだ言葉の数々は、いつも私に力をくれる。特に大事にしているのが「(英語を学んだおかげで)得難い友を得ることができた」という一節だ。韓国語を通して出会った友人たちに思いを馳せながら、今日も机に向かう。
◎執筆者プロフィール
德田 晴子(とくだ はるこ)
韓日字幕・吹替・出版翻訳者。翻訳作品に『ぬりえBOOK 花あふれる庭園の妖精たち』(U-CAN)、『THE PURPLE ROAD 練習生時代の思い出の場所から、ミュージックビデオの撮影地まで』(KADOKAWA)がある。韓国文学翻訳院翻訳アカデミー夜間課程翻訳アトリエに在籍中。
★次回は韓日翻訳者(ウェブトゥーン)の織田等子さんに「私の一冊」を紹介していただきます。
