日本翻訳連盟(JTF)

通訳者の語学&専門知識獲得術(後編)

講演者:通訳者 齋藤 亜生子さん

日本翻訳連盟主催の 2025 年翻訳祭から選りすぐった講演の抄録をお届けします。「通訳者の語学&専門知識獲得術」後編では、限られた準備期間の中で日々、多様な案件への対応を迫られるご自身の経験を踏まえて、通訳者にも翻訳者にも役立つ「専門的な語彙の習得」「発音の習得」「専門知識を詰め込む」ための実践的ノウハウをお話しいただきました。

●通訳案件に関連する語彙を増やす

前編では、一般的な語彙を増やす方法についてお話ししました。後編は通訳の視点から、通訳案件が来た時に、その案件に関係する用語をどう習得していくのかという切り口からお話しします。これもやり方は人それぞれで、やっていくうちに自分が一番効率よくできる方法が確立されていくと思います。

上の図は、通訳案件が来てから私が語彙を習得するまでの流れをイラストで示しています。この図は、左から右の順でご覧ください。まず案件の打診があり、確定したとします。案件が決まると一般的には案件概要や、イベントであれば登壇者、参加者、団体名などを共有いただけますので、そういったところからキーワードを抜き取って網羅的に基礎情報を収集しながら用語をピックアップしていきます。

① オンラインの用語集を活用する

用語をピックアップするには、オンラインの用語集がとても便利です。世の中には親切な方がたくさんいて、個人で用語集を丁寧に作っている方もいますし、企業で自分たちの業界の説明や、簡単な動画、英日で表記した用語集をホームページで提供しているところもあります。こうしたものの中から自分が使うであろう単語を検索するといいと思います。いくつか紹介します。まず、IT用語辞典です。

PCS - Piyopiyo Create Service「『分かりそう』で『分からない』でも『分かった』気になれるIT用語辞典」https://wa3.i-3-i.info/

検索バーにキーワードを入れると、検索結果を戻してくれます。例えば、私は「引き数」と「戻り値」と「関数パラメーター」の関係がよくわからなくなってしまって、このサイトで「戻り値」を検索してみたら、すごくわかりやすかったです。説明とともにクスっと笑えるようなイラストも出てきて、それも難しさを軽減してくれる要素かなと思います。

この「戻り値」については、はじめに「return value」という英語表記と「プログラムや関数から出てくる値のこと」と辞書的な説明が出てきて、ここまでなら他の用語サイトと変わりません。このサイトがいいのは、棒人間系のイラストを交えたかみくだいた説明です。初心者の自分でも、読みたいなと思わせる説明です。

東京エレクトロン株式会社「ナノテクミュージアム(NANOTEC MUSEUM)」の「半導体用語集」https://www.tel.co.jp/museum/words/

もう1つご紹介したいのが、東京エレクトロンが作っている半導体用語集です。

本当に充実していて、アルファベット順と50音順で書かれています。私は半導体の案件も時々受けるので、かなりの確率でこちらのサイトにお世話になっています。

例えば、「三次元積層LSI」という用語を見ると、英語の併記も書いてあります。もちろん説明も書いてありますが、先ほどのIT用語辞典ほど詳しい説明はありません。ある程度この業界の知識がある人向けに書かれていますので、わからないことがあれば、同じサイト内の「半導体最新情報」とか「半導体の原理」「半導体ができるまで」を参照すると丁寧に説明されているので、この辺を見ながら知識を補います。

以上、2つだけご紹介しましたが、ほかにも「会計用語集」(マネーフォワード提供)なども参考にしています。皆さんもいろいろ検索してみて「自分にはこれは使えるな」と思う用語サイトが出てくれば幸いです。

会計用語集(日本語のみ。解説付き) https://biz.moneyforward.com/words/

ウェブサイトで調べる以外に、書籍を購入してそこから用語をピックアップすることもあります。「○○の仕組み」シリーズや「○○入門」のような本はとても役に立ちます。書籍は、用語だけでなく詳しい説明やイラストも豊富なので案件準備に活用します。後ほど、もう少し詳しく書籍の活用方法に触れます。

②自作用語集を作成する

サイトや書籍でピックアップした用語を元に、今度は自作の用語集を作っていきます。

下図は私が作っている自作用語集です。ExcelでA列に英語、B列に日本語を入れています。前編でご紹介した『文で覚える単熟語』(旺文社)や『CNN ENGLISH EXPRESS』も左側に英語、右側が日本語というフォーマットなので、私も自然にこの形式を踏襲するようになりました。

自作用語集が完成したら、ツーインワンで印刷します。そうするとA4の半分で済むので場所も取らず、移動中や料理中、もしくはエクササイズの途中などにさっと取り出して見やすい大きさだと思います。

この用語集は自動車業界の社内通訳をしていた頃に作ったものです。プール制だったので、あらゆる部署の様々な案件に対応していたため、「General(一般)」「IT」「RD」「Materials」「Production」「Logistics」と、部門ごとにシートタブで分けて用語集を作りました。1つの案件であっても、部門をまたいだトピックが出る場合があります。用語自体は該当タブに追加して、これまで作成したタブ全てを対象にして検索したい時は、横串検索(全タブを選択して検索ボックスに調べたい単語を入力)で行います。

この横串検索は、自分のローカル等に保存している用語集全体でもできます。どういうことかというと、自作の用語集を1つのフォルダの中に格納しておいて、フォルダの検索機能を使って、今まで作った用語集すべてを対象に検索をかけることができるのです。私はWindowsユーザーなので、下の図のようにWindowsのエクスプローラから用語集というフォルダを見つけて検索ボックスに調べたい単語を入れます。例えば「リチウム電池」と入れると、自動車だけではなく他にリチウム電池が出てくる用語集、例えばリチウム電池を作っている会社や環境系のイベントなど、関連の用語集が一覧で出てきます。

過去に自分で作った用語集を横串検索しているので、記憶に完全に定着はしていないものの、2度目以降なので記憶への定着が早いのもメリットだと思います。このフォルダ内の用語集の検索はとても便利なので、ぜひ使ってみてください。

ちなみに私は先日、このフォルダ内でプロパティを見てみたら600ぐらいExcelが入っていたました。600ぐらいあると、かなりいろいろな用語を横串検索することができています。

●発音を習得する

ここまで書籍、各種用語集から用語をピックアップして自作用語集に落とし込み、通訳案件の語彙を増やしていく方法を説明してきましたが、せっかく単語やフレーズを覚えても、実は間違った発音で覚えてしまっていることがあります。

そんな時には音源があるものはそこに立ち返ればいいのですが、ウェブサイトからピックアップしたり書籍から取り出してきたりした単語には発音記号が付いていないので、後で確認が必要です。

特に物質の名前、病名、体の部位、団体名、それから地名でもメジャーでない場所ですと長くて読みづらかったり、発音記号が付いていても口がおぼつかない場合もあります。そんな時にどうするのかというと、私がよく使うのはYouGlishというサイトです。

YouGlishhttps://youglish.com/

とても便利なサイトで、検索バーに発音を知りたい単語を入れると、YouTubeの中に格納されている膨大な動画の中から、その単語が使われている動画をピックアップしてくれて、それが発話されている箇所をピンポイントで再生してくれます。

私がこれを知ったのは、数年前にJACI(日本会議通訳者協会)の夏のフォーラムに登壇された翻訳家の高橋聡さんのセッションでした。それ以来、何百回、何千回も、単語はもちろん、地名、会社名、人名など辞書に載っていない言葉の発音を確認するのに大変に役立っています。

例えば「spectrometer」という単語が何回も出てくる案件対応の準備として、その発音を確認してみましょう。まず検索バーにこの単語を入れます。すると、「spectrometer」が含まれる動画数とともに、一つ目の対象動画が表示されます。動画を再生すると、「spectrometer」とその前後の文章も字幕で出てきます。検索した単語「spectrometer」は黄色で強調されるので、どこで発音されたのかがすぐわかります。あっという間に発音の再生が終わってしまって、もう1回聞きたいと思う時には、Replayボタンを押してもう一度聞いたり、何度もReplayを押して反芻したりします。

さらに素晴らしいのは、動画はYouTubeから取っているので、検索結果を出す画面に「『spectrometer』という単語が使われている動画は877件ヒットしていて、これはそのうちの1つである」ということが表示されます。つまり877通りの「spectrometer」の言い方があるんですね。同じ人が何回も使っている場合もあるので重複もありますが、様々な動画で見ることができます。英語ネイティブはもちろん、ノンネイティブの方の動画も含まれるので、一つの単語をいろいろなアクセントで聴くことができます。特に通訳案件ではノンネイティブの方が発話される場合もありますから、耳を慣らしておくためにも活用できるツールだと思います。

もう1つの発音習得の方法としては、前編のドラマ・映画で語彙を増やすというところでご紹介したように、映画やドラマで使われている単語をそのままセリフとともに覚えていく方法です。

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