通訳者の語学&専門知識獲得術(後編)
講演者:通訳者 齋藤 亜生子さん
●専門知識を詰め込む
次に、通訳者として各案件に当たる時に、どんなふうに専門知識を詰め込んでいるかについてお話しします。
自分が明るくない分野のトピックについても、あたかもそれを知っているかのように聞きやすい通訳をしなければいけません。どんな分野でも、お引き受けしたからには訳出に支障が出ないように準備が必要です。ただ、与えられている時間も限られているので、いかに短時間で勘所を押さえた知識獲得ができるかが肝になります。
① 多様な使い方ができる便利なツール「Notebook LM」
下の図は非常に便利なツール「Notebook LM」です(Notebook LMは2026年7月に「Gemini Notebook」に名称変更されましたが、ほぼ同様の仕様)。

Googleが提供している生成AIのサービスで、無料版と、Google Oneのサービスの一部として提供されている有料版があり、私は現在、月額2900円でGoogle Oneのサービスを受けています。これはNotebook LMだけでなく、Google Meetを制限なしで使用でき、Google Driveの容量も2テラまで増えるので、このようなサービスを普段から使っている方にとってはお得に感じられる思います。
Notebook LMは、様々なソースから吸い上げた情報をもとに、概要や用語のまとめ、さらにチャット形式で質問することもできます。様々なソースとは、例えばPDFやテキストファイル、ウェブサイトのURLやYouTubeの動画も使えますし、音声ファイルをこの中に入れることもできます。ただ、こうしたAIはセキュリティが気になるところなので、事前にどこまで入れられるのか、どの資料は入れてもいいのかをクライアントに確認してから使うようにしています。
当初無料版を使っている時は、中に入れるデータはすべて、公開されている公(おおやけ)の情報だけでした。企業からいただいているような資料は当然入れられないので注意が必要です。
このNotebook LMですが、もともとJACI(日本会議通訳者協会)の会員で元システムエンジニアの黒田玄さんが紹介されていたのがきっかけで使うようになりました。黒田さんはJACIのサイトに不定期で「シリコンバレー徒然通訳テクノロジーだより」という連載を書かれています。不定期ではありますが、Notebook LMの他にもChatGPTを活用した単語帳作りについても書かれていて勉強になります。連載はどなたでも読めますので、是非ご覧ください。
第12回シリコンバレー徒然通訳テクノロジーだより「GPTを使って&作ってみよう」(JACI内連載) https://www.japan-interpreters.org/news/tech-kuroda12/
第13回シリコンバレー徒然通訳テクノロジーだより「リサーチアシスタントとして NotebookLM を活用しよう」(JACI内連載)
https://www.japan-interpreters.org/news/tech-kuroda13/
ちなみに上図のNotebook LMのスクリーンショットは、黒田さんの記事からお借りしました。
では、Notebook LMの使い方を実際に見ていきましょう。

上図のように画面が、左から「ソース」「チャット」「Studio」と三分割されています。
例えば「オードリータンと台湾デジタル民主主義」というトピックで通訳することになったとします。まず左にソース(情報源となる素材)を入れます。「追加」ボタンをクリックすると、いろいろなソースをアップロードすることができます。自分のハードディスクドライブからファイルを選択することもできますし、ウェブサイト、YouTube、テキスト、Googleドライブからも選択することができます。
ここでは、YouTube、資料、それにテキストも貼り付けてみました。これらのソースを元に、Notebookが画面中央のチャット箇所に要旨を出してくれます。重要なところは太字で出てきます。
便利なのは、その下のチャット機能で、例えば「特に重要な点を200字で説明して」と入力するとAIが考えて、入れたソースをベースに答えを返してくれます。ここがいわゆる汎用の生成AIと違うところで、回答は必ず自分が入れたソースをベースに出してくるので、裏取りができていて精度のよい回答が出てきます。こうして出てきたチャットの回答は「メモに保存」を選ぶと、右側の「Studio」のボードに保存されます。

右側の「Studio」では、入れた内容を「音声解説」「動画解説」「マインドマップ」「レポート」といった形で提示してくれます。例えば、「音声解説」を選ぶと、上図には「台湾デジタル民主主義…」というタイトルがついていますが、2名のホストがこの内容についてPodcastの形式で語っている10分弱の音声ファイルを作ってくれます。耳で内容を理解したい場合には、これを再生するとよいでしょう。ただ、Podcastは生成に結構時間がかかりますのでご注意ください。
「マインドマップ」というのも面白くて、例えば下図のように視覚的に内容を理解できるように図にしてくれます。視覚的に全容を理解したい時にはこの機能を使うとよいでしょう。

私が一番使うのは、「レポート」の中の「学習説明資料」という機能です。
下図右側は、私が作った「学習説明資料」です。英語になっていますが、設定で出力言語も変えることができます。現在、他の言語対応についてはわかりませんが、日本語、英語は設定ボタンから簡単に切り替えられます。

Notebook LMの最新バージョンでは、Podcastも日本語で生成できるようになったと聞きました。私がしばらく前に使っていた時には、英語でしかアウトプットができなかったので、AIの進化と共に機能がどんどんアップデートされていると思います。
それから、「学習ガイド」を使うとクイズを作ってくれます。内容をベースに問題が出て、模範解答も出してくれます。このクイズの下に出てくる「Glossary of Key Terms」も便利で、内容に基づいた単語を列挙してくれます。

上図のように「Plurality」とか「San Francisco Commons」など、ソース内で何度も出てくる単語を集めているので、ここで用語集を補完することもできます。ただ注意したいのは、訳語はソース由来ではなく、あくまで生成AIが出しているもので、たまに間違っていることがあります。裏取り作業は発生しますが、こんなふうに用語が出てくるので、非常に学習効率はいいと思います。
以上がNotebook LMの簡単な使い方です。無料版でも使える機能に大きな差はないので、ぜひ試してみてください。使い方の参考サイトも挙げておきます。
「Gemini Notebook(旧NotebookLM)」の利用方法(東京経済大学情報システム課)
https://www.tku.ac.jp/iss/guide/classroom/ai/gemini-lm.html
② 入門書を活用する
専門知識を詰め込む方法として、Notebook LM以外に入門書の活用があります。
『原子力のサバイバル』(ゴムドリco. 文、韓賢東 絵、朝日新聞出版)をはじめとする科学漫画サバイバルシリーズは、難しい内容を限りなく優しく書いてある入門書の代表格の漫画です。小学生が理解できるような語り口で、「なぜそもそも原子力で発電できるの」というところから丁寧に説明してあり、漫画のストーリーに合わせて科学的な事象の説明が展開していきます。原子力の仕事を初めてする時に、「原子力ってなんだろう?」から始めなければならなかった私には、とてもありがたい存在でした。また、図解も多いので、知識がない私も理解することができました。
また、『よくわかる最新 半導体の基本と仕組み』(西久保靖彦著、秀和システム新社)のような「よくわかる○○」「○○の基礎」「○○の仕組み」といった書籍は、ECサイトで検索してみるとたくさん出てくるので、自分に合いそうなものを選ぶといいと思います。
定番ですが、『会社四季報 業界地図』(東洋経済新報社編、東洋経済新報社)も便利です。ずいぶん前になりますが、通訳の先輩にIRのカンファレンスで勧められて以来、毎年購入しています。電子書籍バージョンもあるのですが、図やチャートが多い紙面のため、タブレット等の画面から見づらく、会社名等を索引から検索するのも手間がかかったので、私は紙のものを毎年購入しています。
この『会社四季報 業界地図』は、業界ごとに日本国内外の主力企業複数社について書かれており、業界内での各社の関係性や過去の合従連衡、例えばM&Aがあったとか、どこがどこの傘下に入っているのかなどが断面図的に理解できるチャートがついているので、概要を理解するのに非常に助けられています。
それとは別に、同じページの中に、その業界の現状の説明と、今ホットな単語や用語がキーワードとしていくつか出ているので、その辺りも用語としてピックアップできます。
③ Podcast、YouTubeの検索機能が有用
Podcast、YouTubeも頻繁に準備に使っています。検索機能がついているので、案件で企業や登壇者、講演者の名前がわかっていればそれらを検索バーに入れて関連コンテンツを探します。場合によっては「環境問題」といったトピックで検索をかけ、できるだけ最新の、自分の案件と内容が近いコンテンツを探して視聴します。
ただ、Podcastは番組収録時の音質がよくない場合もあるので、ストレスなく学習を進めるためにも音のよいものを選ぶことをお勧めします。
YouTubeの場合は、よいものが探せれば先ほど紹介したNotebook LMにソースとして入れると、今度は文字情報として概略や用語集を作れるのでとても便利です。
④ 専門家に聞く
「専門家」とは、ご家族や親しい人で、担当する案件に近い業界(例えば生命保険や自動車会社、地方自治体、医薬関係など)にいらっしゃる方がいれば、彼らがその専門家です。わからないことがあったら聞いてみると、周辺領域も含めて丁寧に説明してもらえるので、非常にありがたい存在です。聞ける方が身近にいるのであれば、大いに頼ってみてはいかがでしょうか。
●詰め込んだ知識のまとめ方、覚え方
このように知識を詰め込んで調べた内容をまとめて、そして記憶する方法はいろいろあると思いますが、私は基本的に手を動かすことをします。書きながら目でも覚えて内容を整理することも記憶に定着させる方法の一つだと思います。私はまとめ作業に電子ツールはあまり使いませんが、お好みでいろいろな方法があると思います。

私が具体的にどんなことをしているかというと、上図の一番左側は、A5サイズのノートに知識をまとめたものです。先ほど紹介した『原子力のサバイバル』という漫画を読んで原子力の基礎を詰め込む過程で、漫画のイラストもそのまま手書きで写しながら、必要な単語には赤字で英訳も付けていきます。ノート見開きの左ページに知識をまとめ、右ページに関連する用語を日英で表記するようにしています。
上図の中央は書籍に書き込む方法です。たとえば『会社四季報 業界地図』の「半導体材料」という業界のページを見ると、紫の四角や青い四角の中に入っているのが企業名で、お互いに今どういう関係なのかということがわかるようになっています。
その下に文字が書かれているのですが、私は「これを読んだだけではわからない、もっと詳しく知りたい」というものを手書きで書いて、そのメモを貼り付けたりします。場合によっては、新聞記事の切り抜きをここに挟むこともあります。そんなふうにすると、いつも自分がわからなくなりがちなところを、もう一度復習することができて便利です。
上図の一番右側のように、PowerPointやWordに獲得した知識をまとめてみることもあります。ここに出したのは図式化した物質の説明です。いつも混同してしまう物質名があったので、絵にして視覚的に頭に入れる方がいいなと思った時には、こんなチャートを作ってみることもあります。
このように、詰め込んだ内容を記録する方法はいろいろあります。繰り返しになりますが、後ですぐ取り出せて何回でも繰り返し復習できたり、他の案件でも再度利用できたりするようなフォーマットになるようにこころがけて作業しています。
Notebook LM、入門書、Podcast、YouTubeなどを活用して、専門家にも習って、短時間で専門知識を詰め込んだ後に、できれば総仕上げとして、詰め込んだ知識を自分の言葉でプレゼンができるまでになっていると大変良い仕上がりだと思います。
壁に向かって独り言でもいいのですが、私が時々やるのは家族、特に子どもを前にしてのプレゼンです。子どもは容赦なく「意味がわからない」などと言うので、自分の知識が本当に定着しているのかを確認する時に聞いてみたりします。こんな形で専門知識を詰め込む作業を仕上げていきます。
以上で私の講演を終わります。ありがとうございました。
◎講演者プロフィール

齋藤 亜生子(さいとう あきこ)
通訳者・一般社団法人日本会議通訳者協会(JACI)会員
上智大学仏文科卒、東京学芸大学大学院国語教育専攻中退。米国公立学校で日本語教育に従事後帰国。通訳養成機関受講後、現在は自動車、半導体、IR、再生エネルギー、ビジネス分野を中心に通訳。
