日本翻訳連盟(JTF)

AI翻訳があるのに、なぜ英語を学ぶのか?(1)

講演者:厚木市立鳶尾小学校 総括教諭 成田 潤也さん

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●AI翻訳を導入する企業が増加

そして、AI翻訳は、企業がどんどん導入し始めています。

上図は、ポケトークのホームページに載っているメガネのJINSの例です。「このフレームだといまのメガネより少しレンズがはみ出します」という接客英語を、大学生に言えと言ってもたぶん言えないですよね。「メガネは乱視の追加料金がありません」も同様です。私も「乱視」という単語はこのページを見るまで知りませんでした。これを語学研修で実現しようと思ったら、相当な労力と時間とお金を費やさなければなりません。それでいて、労力対効果、費用対効果が見込めないです。

英語だけならまだしも、ロシア語、フランス語、中国語などさまざまな言語の顧客に対応しようと思ったら、1台数万円の専用翻訳機を導入しない方が企業としてどうかしているという時代になってきつつあるわけです。

●訪日外国人や外国籍児童の大半は非英語話者

そして、英語を学ぶのは日本がグローバル化してきたからだという言説もありますが、内訳を見れば、訪日外国人の8割は非英語圏出身であることは明らかです。第二言語のレベルではわかりませんが、少なくとも母語レベルで言うならば、必要な言語はおそらく英語ではないということが見えるわけです。


上図の数値はコロナ以前(2019年)の最大値であり、今現在盛り返しているところで、また時代が変わればこの数字も変わってくるとは思いますが、おそらく非英語圏出身が大半を占めるという状況に変わりはないと思われます。

この状況は日本の教室の中でも起きています。文科省は、2年に1回、全国調査を行って、日本語指導が必要な児童生徒の状況を調べています。

上図のように、日本語指導が必要な外国籍、日本国籍、両方合わせた合計の中で、英語母語話者は全体の約7パーセントしかいません。つまり、ほとんどの教室で一緒に学んでいる友達は、ポルトガル語、中国語、フィリピン語、スペイン語を喋っているわけです。そういった教室の中で授業を英語で行っていることの歪さに、教師は自覚的である必要があると思います。

私は英語を教えるなと言っているのではありません。むしろ、英語を教えることによっていろいろ伝えるべきことはあるけれど、指導者が英語だけで良いと考えてしまうのはまずいと思っています。

ここまでお話しした通り、いろいろな常識が甚だ怪しくなってくるわけです。小学校で外国語、つまりは英語を学ぶ意義というのが、今までは、英語話者との意思疎通のためとか、英語の文章から情報を得るためとか、就職に有利、就職後に活躍できる、グローバル化に対応するためなどと説得されて英語を勉強してきたわけですが、これも甚だ怪しいかなと思ってくるわけです。

●AIを活用した国家プロジェクト「翻訳バンク」

では、国は今現在、どんなことをしているかというと、総務省と情報通信研究機構(NICT)がタッグを組んで翻訳バンクという国家プロジェクトを動かしています。

これは、今までは各公官庁や企業に死蔵されていたさまざまな、時間とお金をかけた高品質な日本語と外国語の対訳データを、国が吸い上げてAIに学習させる。そうすると、極めて高品質な学習ができるわけです。それによってAI翻訳がより賢くなり、その賢くなったAIを、データを提供してくれた公官庁や企業に安価で提供するという、双方Win-Winの取り組みです。

その高機能なAI翻訳を使うことによって、例えば一刻一秒を争うような特許や製薬といった企業の動きがより一層速くなるわけです。100パーセントの翻訳を待たずして、90パーセントぐらいで動き始めることができる。今までは訳がきちんとできなければ前に進めなかったものが、すぐにでも動き始められるようになります。これは非常に大きな変化です。

オールジャパン体制で翻訳データを集積、活用し、世界の言葉の壁をなくすと標榜してきました。その結果、NICTは「2020年までに多言語音声翻訳技術の社会実装を目指す」と言って、多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra」をリリースしました。これは、スマートフォンに無料でダウンロードすることができ、オリンピックの招致の時などにも非常に活躍したと聞いています。

●日本語と外国語は機械翻訳を介して双方横断的に学習できるのでは

時を同じくして小学校教育は、2020年から外国語(英語)教育を高学年で教科化し、3、4年生で外国語活動として必修化しました。小学校6か年のうち後半の4か年で外国語を学ぶという方向転換をしたのです。

これがちょっと引っかかるわけです。小学校で行われていることと社会の事実がちょっと噛み合わなくなってきているのではないかということです。

私はこの問題意識のもとに、当時の博報財団(現在は博報堂教育財団)の研究助成事業に応募して、「機械翻訳を介しての外国語と国語の横断的学習に関する研究」をさせてほしいと申請をしました。これは明確な仮説があったわけではなく、機械翻訳を使うことによって日本語と英語というのは双方横断的に学習できる可能性があるのではないか、それを検証させてほしいという探究的な研究だったのですが、これが通りまして、2019年度に1年間、助成金をいただいて研究をすることができました。

この申請時、私は学校教諭だったのですが、2019年に実際に研究する段階では県の指導主事になってしまったので、現場の先生方に協力していただきながらこの研究を達成することができました。この研究はその年の優秀賞を受賞することができまして、一定の成果を認めていただけたのかなと思っています。

この研究成果の学術論文は、インターネットで無料で読むことができますので、ご興味があればぜひ見ていただけたらと思います。

「言語教師教育」Vol.9 No.1(2022 年 3 月6 日)p56~69
https://assoc-jacetenedu.w.waseda.jp/VOL9NO1.pdf

また、この研究の概要については、その博報堂教育財団のページに掲載されていますので、もしよかったらご覧いただけたらと思います。
https://hakuhodofoundation.or.jp/subsidy/report/introduction/no27.html

次回は、この研究について少しかいつまんでお話をさせていただきます。

(第2回につづく)

◎講演者プロフィール

成田 潤也(なりた じゅんや)

厚木市立鳶尾小学校総括教諭。公立小学校教諭として15年勤務した後、横浜国立大学大学院に2年間現職派遣。教育学修士号(英語教育)を取得後、神奈川県教育委員会指導主事を3年間務め、2022年度から現職。AI翻訳時代における小学校外国語教育の在り方について発信を続けている。「機械翻訳を介しての外国語と国語の横断的学習に関する研究」で、博報堂教育財団第14回「児童教育実践についての研究助成事業」優秀賞。

著書に『マンガでサポート!他教科コラボの“ChaChat英語”英語が苦手!?な担任でも創れる小学校外国語活動』(学芸みらい社)、日本経済新聞の動画コンテンツ「NIKKEI Film」およびYouTubeにて小学校5年生に向けた特別授業「AIあるのに、なんで英語勉強するの?」を公開。

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