私の一冊:『29歳、今日から私が家長です。』
第75回:韓日翻訳者 織田 等子さん

男性と女性の役割を入れ替えてみたら、小さな違和感が見えてきた――日常に潜む家父長制度に気づき、考えるきっかけをくれる一冊だ。ユーモアたっぷりな物語に仕立てられたこの作品には、まず原書で出会った。
読後は自然と自分の母の顔が思い浮かんだ。彼女はどんな感想を持つのだろう? 読んだら話してみたいことがたくさんあるのに。まだ邦訳書が出ていないなか、韓国語のわからない母にとって言語の壁は高く、私は歯がゆい思いをしていた。そんな矢先、なんと訳書が出るというではないか! 私は早速その本を送りつけた。
母が実際に読んでくれたかどうかはさておき、韓国語でしか読めなかった本を日本の家族や友人に紹介できるようになったことがとてもうれしかった。
あのとき、内容をかいつまんで説明することはできたと思う。けれど私は、単に情報を伝えるのではなく、同じ本を読んだ経験を共有したかったのだろう。読んでほしい人がいるのに本を届けられない――あのときのもどかしさが、翻訳に取り組みつづける理由の一つだ。
◎執筆者プロフィール
織田 等子(おだ とうこ)
普段はウェブトゥーンやウェブ小説の韓日翻訳しています。韓国文学翻訳院の翻訳アカデミー夜間課程にて文芸翻訳を学習中。好きなジャンルは小説や絵本、好きな動物は犬。
★次回は韓日翻訳者の金知子さんに「私の一冊」を紹介していただきます。
