日本翻訳連盟(JTF)

ISO規格の最新動向

ISO TC37/SC5ストラスブール総会参加報告

  1. ISO/TC 37の概要と翻訳部会(WG 1)の議論
  2. ISO規格のWG2(通訳)・WG3(通訳機器)の最新動向
  3. 翻訳部会(WG 1)の技術仕様書、翻訳志向文書作成部会(WG 12)、用語調整グループ(TCG)の動向
3. 翻訳部会(WG 1)の技術仕様書、翻訳志向文書作成部会(WG 12)、用語調整グループ(TCG)の動向

2026年のISO/TC 37総会は、フランス・ストラスブールで開催されました。ここでは、翻訳部会(WG 1)で開発が進められている技術仕様書2件、翻訳を基調とした文書作成部会(WG 12)による国際規格、および通訳翻訳に関する用語調整グループ(TCG)の活動について、ストラスブール総会での議論を踏まえてご報告いたします。

ISO/WD TS 25391「組織内翻訳担当部署(サービスユニット)のガイドライン」

日本とオーストリアが主導する ISO/WD TS 25391 General guidelines for in-house translation service units は、2024年11月の登録以降、作業原案(WD)のコメント対応段階(ステージ20.60)にあり、ストラスブール総会でも集中的な検討が行われました。今総会では、組織内翻訳担当部署の機能に関する記述をさらに実務的に拡充し、とりわけ新たに「組織内翻訳のリスクマネジメント」に関する記述が加えられました。

具体的には、組織内翻訳担当部署がプロジェクトのリスクアセスメントを実施する責任を負うことを明確化し、想定すべきリスクとして、①情報セキュリティ、②内容の複雑性・専門性に起因する品質、③有資格の言語専門家の確保といったリソース、④機械翻訳(MT)や翻訳メモリ(TM)の限界に関わる技術、⑤スケジュール・納期の五つの類型を整理しています。あわせて、必要に応じてリスク低減策を策定・実施すべきことを規定しています。

また、リスクベースの品質管理の考え方が示されました。品質管理の水準は、コンテンツの可視性、重要度、想定される影響の大きさに見合ったものとすべきであり、例えばプレスリリースのような対外的発信は、社内メモよりも厳格なレビューを要します。外部委託の判断については、コンテンツの性質、外部提供者の資格と信頼性、データセキュリティ体制を評価したうえで、文書化された意思決定の枠組みを整備することが求められます。委託の比率が高まる場合、組織内チームの役割は、プロジェクト管理、ファイル準備、入荷翻訳の品質保証、用語管理、スタイルガイドの維持へと移行しますが、成果物の品質を担保するうえで、組織内に深い翻訳専門性を有する人材を残すことが不可欠であるという議論になりました。

機能面では、組織内翻訳担当部署への早期相談体制の確立、外部委託管理における同部署の戦略的役割、業績測定指標の設定、通訳・ローカライゼーション等の関連サービス、継続的専門能力開発(CPD)、他組織との比較評価(ベンチマーキング)といった実務的なガイダンスを整理しました。用語面では、「言語資産(linguistic assets)」や「保護情報(protected information)」の定義が新設され、組織内翻訳業務における専門用語の明確化が図られています。あわせて、AI翻訳技術の使用に伴う倫理的・法的配慮に関する記述の精緻化も継続して進めています。

本規格は、2026年9月の委員会原案(CD)登録、2027年の発行を目標としており、内容面の充実と並行して、OSD(オンライン規格開発)環境での参考文献の整理など編集面の作業も進めています。

ISO/AWI TS 25368「司法・公的機関向け認証翻訳」

欧州法務通訳翻訳協議会(EULITA)が主導する ISO/AWI TS 25368 Certified translations for judicial settings and public authorities は、2024年のNP投票を経て、現在プロジェクト開発の初期段階(ステージ20.00)にあります。本技術仕様書は、司法機関や公的機関における認証翻訳の品質基準、手続き、翻訳者の資格要件を定めるもので、法廷の証拠書類、公的文書、契約書類などの翻訳において、法的効力を伴う認証翻訳の統一的な国際基準を確立することを目的としています。ストラスブール総会でも、各国の法制度の違いを踏まえた認証手続きの標準化について検討が行われ、翻訳者の資格認定、品質保証プロセス、機密保持義務、責任範囲といった主要項目が議論されました。

作業原案の検討(WD study)の正式な開始は2026年9月、CD登録は2027年2月、発行は2027年を目標としており、ISO/TS 25391に続く形で開発が進められています。

ISO/FDIS 18968「翻訳志向文書作成」

翻訳を基調とした文書作成部会(WG 12)でドイツがコンビーナ・プロジェクトリーダーを務める ISO 18968 Translation-oriented writing — Text production and text evaluation は、翻訳を前提とした効率的な文書作成と、作成された文書の評価に関するガイドラインです。本規格は、昨年の委員会原案(CD)段階から国際規格案(DIS)、そして最終国際規格案(FDIS)へと順調に進みました。(2026年6月9日を期限とするFDIS投票で承認(Approved)されました。これにより、今年度中の発行が見込まれています。)

翻訳を意識した文書作成の原則を提示することで、後工程の翻訳の効率と品質の向上に資するものであり、今回取り上げた4件のなかでいち早く発行に至ります。発行後、当該ワーキンググループは解散し、5年後の体系的な見直しの結果に応じて、必要時に再招集される予定です。

用語調整グループ(TCG)による用語整合の推進

用語調整グループ(TCG)は、ストラスブール会期中の2026年5月27日にアドホック会合を開催しました。今会合では、標準開発におけるOSD(オンライン規格開発)プラットフォームの使用が必須化されたことを起点に、規格文書が将来的にデータベース形式となり、文書中の意味ある要素を再利用・再目的化できるようになるという展望が共有されました。紙やPDFといった従来型の公開形式は遠からず時代遅れとなり、そのなかで標準化用語エントリ(STE: standardized terminological entries)の品質が重要な役割を果たすとされました。機械が適用・読み取り・転用できるSMART standardsの開発は、委員会内および委員会横断でのSTEの調和(harmonization)を、これまで以上に高い水準で要求します。

会合では、同一または類似の概念に対する既存STE間の不整合が抱える課題、SMART化に向けたシステム開発上の要件、そしてこれらから導かれるTCGの将来的な役割について討議されました。昨年のISO 20539改訂を中心とした議論から、用語の機械可読性と整合性という新たな課題へと、TCGの活動は着実に広がりを見せています。

総括と今後の展望

以上の4件は、翻訳・通訳分野の標準化が新たな段階に入りつつあることを示しています。ISO 18968が発行に至る一方、ISO/TS 25391はリスクマネジメントをはじめとする内容の充実と丁寧なWD審議を重ね、ISO/TS 25368は初期段階からの検討を進めています。そして、これらすべての基盤として、OSDやSMART standardsに代表される規格の機械可読化・デジタル化の潮流が、内容の作り込みから編集実務、用語の整合に至るまで、SC 5全体の作業に影響を及ぼしつつあります。これらの国際標準が整備されることにより、翻訳サービス全体の品質向上と専門性の確立が一層進むことが期待されます。

◎報告者
京都外国語大学外国語学部英米語学科教授
佐藤晶子

日本翻訳連盟個人会員。JTF ISO検討委員会委員。現在京都外国語大学外国語学部英米語学科教授。2016年、個人として『ISO 17100:2015』認証を取得し3回更新を行っている。『ISO 9001:2015』審査員補。組織内翻訳の業務年数が長く、組織内翻訳者に関する人事、労務管理の視点からのガイドライン策定は必須であると考えている。経済産業省「戦略的国際標準化加速事業」に採択され、ISO/TC 37/SC 5委員、プロジェクトリーダーとしてオーストリアの委員とともにISO/TS 25391 Guidelines for in-house translation service units を策定している。

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