2026年度 日本翻訳連盟定時社員総会 基調講演
AI翻訳、進歩したからこそ必要なこと
付記――今後の大規模調査実施のために
二宮:高橋さんからも、今がAIやMTを世の中全体で正しく使っていくための最後のチャンスかもしれないという言葉がありましたが、私もまさにそう思っています。
そこで、皆様に1つお願いがございます。今日ご報告したような調査をもっと大規模にやっていきたいと思っています。大規模にやるためにはお金が要ります。そこで申し訳ないのですが、調査をやるために皆様にぜひ、寄付をしていただきたいのです。
なぜもっと大規模な調査が必要なのかというと、今回調査対象になった回答者は、翻訳会社のお客様で製薬・医療系企業の方が多く、実は語学も堪能な方が多い。語学が堪能であるからこそ外国語の仕事がたくさん回ってきて、手が足りなくなって翻訳会社を使うことが多いのです。外国語が分からないから使うということはあまりなく、非常に外国語のリテラシーもドキュメントに対するリテラシーも高いのが今回の回答者の特徴です。
そうではなくて、一般のビジネスユーザーのほうはどうなのかということを調べたいと思っていますが、JTFからはアクセスできない方々なので、やるとなると一般の調査会社に有料で依頼するしかありません。そのためにお金が必要になります。
もう1つお金が必要な理由は、皆様、誤訳が発生する可能性は認識しているけれども、実際にちゃんと直しているかというと、3割の方は怪しいという調査結果がありました。逆に言うと、7割の方は大丈夫でしょうということだと思いますが、私はこの7割の方にも「本当に直していますか?」と疑問に思うところがあるのです。
自白しますと私自身、LLMに英語を作らせて、それを自分で直す自信はないです。皆さんも心の中で問いかけてください。先ほど高橋さんが「『モデルが学習された』という日本語は変でしょう?」と怒りの声を上げたときに、「変じゃないけどな……」と思った人は心の中で手を挙げてください。
私は高橋さんからこの怒りを受けたのは2回目なのですが、1回目は「え?」と思いました。「モデル」「学習」という言葉は、もう頭の中に習慣的に染み付いてしまっているので、文で出てきても変だと思わないんです。しかも途中に他の言葉があったので、さっと読むと読めてしまう。高橋さんはプロだから、文章を分解して読み、「モデル」という主語と「学習」という述語をくっつけたんです。そうすると、「モデルが学習された」って変なんですよ。そこまで解説されて、私は変だと分かりました。
一般のビジネスユーザーがこんな詳細な読解をするとは思えません。みんな仕事が忙しくてそこまでやっていられない、というのが正直なところだと思います。ではこれで問題ないのかと言ったら、意味は通じるでしょう。意味は通じるけれども、文章が変だと、その会社、あるいはその人の存在が、やはり軽く見られてしまう。大事なビジネス交渉において、それは「許しておいていいんですか」という価値判断の問題だと思います。
高橋さんから「もう業界がなくなってしまうかも」というお話もありましたが、社会の皆さんが「モデルが学習された」でいいんじゃないか、と判断されるのであれば、確かにそうかもしれません。表現の問題ですからね。
ただ、表現の良し悪しではなく、事実関係の誤訳というのがあって、それはそのままでは困る。では、それをどう見つけていくのか。「しっかりトレーニングされてない人ができますか」ということです。
話がだいぶ回りくどくなりましたが、なぜお金が必要なのかというと、「本当に直せていますか」ということを実証実験してみたいのです。普通のビジネスマンあるいは大学生など、要するに翻訳・通訳のトレーニングを受けていないけれど相応の英語力はある人たちに、実際に修正作業をやってもらい、どのくらいエラーが直るのかを実証したいのです。
なぜわざわざそんなことをやるのかというと、私たち翻訳業界の人間が「まだ人間の翻訳は必要なんですよ」と言っても、誰も真剣に聞いてくれないのです。私も10年ほど前、Google翻訳が出たときからいろいろな場所で言い続けているのですが、誰も耳を傾けてくれません。1人だけ大阪の某経済誌の記者が取材に来て小さい記事を書いてくれて非常にありがたかったですが、その記事の主旨は「サラリーマンの悲哀」という感じでした。
このようなわけでお金が必要ですので、きちんと企画を立てて改めて皆様にお願いさせていただきます。その際はぜひご協力いただければと思います。本日はご清聴いただき、どうもありがとうございました。
今後の日本翻訳連盟のイベント
7月29日 スタイルガイドについてのオンラインセミナー
9月10日 AI時代の翻訳の在り方についてのオンラインセミナー
10~11月 翻訳祭
12月 翻訳者、通訳者の税務についてのオンラインセミナー
詳細は日本翻訳連盟のウェブサイトにて随時公開していますので、ぜひご確認ください。
2026年度 日本翻訳連盟定時社員総会 基調講演「AI翻訳、進歩したからこそ必要なこと」
第1部 機械/AI翻訳の利用に関する調査結果
第2部 加速度的に進歩するAI時代に通訳・翻訳業界が考えるべきこと
